社会福祉法人大阪市社会福祉協議会・大阪市ボランティア・市民活動センターのスタッフブログです。




2012年10月5日金曜日

“障がい者が働く”ことを何か特別なことだと思っていた自分が、本当に恥ずかしくなりました-@日昇館尚心亭~

「おおさか閃き塾」塾生さんたちによるリサーチ活動。現在も、どんどんどんどん進行中です♪ 事務局では、毎日、誰かがリサーチに同行しているため、全員が顔を合わせることもなかなか難しい今日この頃。
9/29(土)午前中には、塾生さん1人&事務局スタッフ2人で、京都まで遠征して参りました!

今回のリサーチ先は、京都東山・三条大橋にほど近い旅館「日昇館尚心亭」。三条駅や祇園もすぐ!の便利なロケーション、洋朝食の焼き立てパンetc.が好評で、修学旅行のお宿としてよく利用されている全76室(収容人数350人)規模の旅館です。
まとめ髪も艶やかな、女将・野村睦美さんにたっぷり2時間半、お話をお聞きすることができました♪ 

今回のテーマは「障がい者雇用の実際を知る」。

「日昇館尚心亭」は、知る人ぞ知る障がい者雇用のパイオニア的存在です(こちらもご参照ください)。20年前(平成4年)から、知的障がい者をバックヤードのスタッフとして多数雇用しておられ、その人数は、毎年平均約20人(現在は19人)。障がいスタッフ(愛称:“はばたき”さん)の仕事内容は、館内および客室の清掃、リネン類交換・洗濯、水回りの清掃、食事の配膳、食器の洗浄、パン製作、ベッドメイクetc.と、各人の適性を見ながら幅を拡げてこられ、今では本当に多岐にわたっています。


「きっかけは、深刻な人手不足でした」(野村さん)。

京言葉も粋な、女将・野村さん

高齢者もダメ、外国人もダメ、学生バイトもダメ…と八方塞がりで困っていたときに、ある人から障がい者を雇用してみてはどうかと勧められ、実際に障がい者の働く現場を見学。その真剣に働く姿を見て、「これなら!」と知的障がいのある実習生7人を先代のお父様が受け入れられたのが始まりだったそうです。そして、その実習生7人は、一生懸命な働きぶりが認められ、数ヶ月後にはめでたく正式に雇用されます。

ところが――

そのことに反発した今までの清掃担当の社員の約半数が、ごそっと辞めてしまうという緊急事態が発生!「それなら…」ということで、もう7人の知的障がい者を雇用し、その後、さらに7人を追加して、最終的には21人の雇用が実現、現在に至っています(現在は19人。うち18人が重度の方)。

「最初は、どう接していけばいいのか、まったくわからない状態」だった野村さんも、20年たった今では、顔色や朝礼での様子などから「今日は危ない(例えば発作など)!」と的確にスタッフの状態を見極めることができるようになったといいます。
また、“はばたき”さんと日々接する中で、体力的に働くことができなくなったり、最初から雇用には向かない知的障がい者の居場所がないことが気になり始め、阪神大震災をきっかけに、平成8年に社会福祉法人 菊鉾会を設立し、平成9年には通所授産・デイサービスの機能を持つ「テンダーハウス」の運営を始められます。
さらに、親御さん・兄弟姉妹とは離れて、自立して生活していくためのグループホームを、元社員寮の一部を活用して平成13年から始められるなど、知的障がいの方の人生にどんどん深く関わっていっておられます。

リサーチの中で、“はばたき”さんの働きぶりを、特別支援学校が取材・制作されたDVDで見せていただきました。その、手際のよい掛け布団カバーの取り換えや丁寧なトイレ掃除の様子は、まったく障がいを感じさせないもので、正直、私たちもびっくりしました!

「作業手順を覚えてもらうのが大変なのでは?」との問いに、「基本的には同じ障がいのある先輩が後輩に教えています」と野村さん。なかなか覚えられない“はばたき”さん向けに手順を歌にして歌いながら作業してもらった話や、“自分だけの仕事”にこだわり暴れた“はばたき”さんに対して「あんたがおらんかったら、うちら困ってしまうわ」という魔法の言葉を囁いて一気にやる気モードに切り替えさせたパートのおばちゃんの話など、たくさんの微笑ましいエピソードも教えていただきました。

親指の短いダウン症の“はばたき”さんの運ぶトレイにベルトを付けて持ちやすくする等、作業がしやすいよう、様々な工夫や改良も、都度、行っておられるとのこと。-「しかし、一番大切なのは、親御さんや家族・支援者のフォローです。家でのフォローがしっかりある“はばたき”さんは、仕事場でもぐんぐん伸びます。仕事場だけで“はばたき”さんをみるのは無理。こちらとがっちりスクラムを組めない親御さんの場合、いくら本人にやる気があっても採用はできません」と、野村さんは何度も仰っておられました。

今回、野村さんの迫力あるお話を聞きながら、私の胸にはある一つの思いがふくらんできました。それは、“障がい者が働く”ことは特別なことなのだろうか、という疑問です。プロとしてきちんと仕事をやり遂げること。要求された以上の結果を出すこと。
これらは、障がいの有無にかかわらず、給料をもらって“働く”以上、当然しなければならないこと。ならば、障がいのある・なしで“働くこと”の本質的な違いは何もないのではないか―。 
“はばたき”さんに対して、また“はばたき”さんをサポートする親御さん・関係者に対しても、“はばたき”さんが一人前のスタッフとして、そして一人の人間として成長していけるよう、叱咤激励しつつ真剣に向き合う野村さんの潔い態度を前にして、私は“障がい者が働く”ことを何か特別なことだと思っていた自分が、本当に恥ずかしくなりました。

具体的な取組のお話もさりながら、何よりも女将である野村さんの、障がいの有無に関係なく「スタッフ全員でいい旅館をつくっていく!」という胆の据わった心意気に圧倒され、大きな感銘を受けた今回のリサーチでした。

大変お忙しい中、2時間半もお時間を割いて貴重なお話を聞かせてくださった女将・野村さん、また、細やかなお心遣いをくださった館のスタッフの皆さん、本当にありがとうございました♪ (市居)